慢性的な人材の不足が指摘されている介護業界。
高齢化の進展により需要の高まりが今後ますます加速していくだろう状況を受け、介護業界でも異業種から参入した企業が既に介護事業を展開している企業を買収するなど、様々な再編の動きが起こっています。
しかし、近年、待遇の改善や職場環境の整備等が少しずつなされてきているにも関わらず、「重労働」「勤務時間が不規則」「給与水準が決して高くはない」というイメージもあってか、介護業界は未だ人材の確保や定着に苦戦を強いられているという現状があります。
そのため、新たな人材の確保に向け、求職者により魅力を感じてもらえ、働きたいと思ってもらえるよう、福利厚生制度を充実させたりアピールポイントとして発信したりする事業所も多く見られるようになってきました。
そこで今回は、介護業界の福利厚生制度の充実と転職者が事前に確認するポイントをご紹介していきます。
■福利厚生制度の充実
福利厚生制度には、法律で定められ義務づけられている法定福利厚生(雇用保険・健康保険・介護保険等)の他に、各企業が独自に設定する法定外福利厚生があります。
従業員やその家族の暮らしや健康をサポートし、働き続けていきやすい環境を整えていくことを目的として設定されるもので、どの業界でも一般的には住宅手当や通勤手当、社員食堂を含む食事補助、子育てや介護に伴う特別休暇、共済会や持株会制度等が設けられていることが多いです。
福利厚生の例
(法廷福利厚生) ・雇用保険 ・健康保険 ・介護保険 など
(法定外福利厚生) ・住宅手当 ・通勤手当 ・食事補助 ・子育てや介護に伴う特別休暇 ・共済会 ・持株会制度 など |
介護業界でも、これらの法定外福利厚生の内容をよりきめ細やかなものにしたり、他の事業者よりもその種類が豊富であることをアピールするなどして人材確保や定着に繋げようという動きが見られます。
実際、介護施設や事業所、介護サービスを展開するグループ企業等のウェブサイトの採用案内を覗いてみると、充実した福利厚生制度をアピールしている文面も多く見られます。
中には、事業者が設定している福利厚生だけでなく、旅行や生活サービス等を含めた多数のアイテムの中から従業員がいくつかを自由に選んで利用することのできるものを提供しているものもあります。
■転職者にチェックされやすいポイント
このような動きは介護業界への転職を考える人にとっては、まさに「追い風」とでもいえるのではないでしょうか。
転職先は、前述のようなごく一般的な福利厚生制度が設けられていることを前提にした上で、さらに「介護業界ならでは」のニーズに基づいた視点から福利厚生の内容を確認されることがあります。
ポイント① 通勤のしやすさがどのくらい保証されるか
介護職は施設や事業所の形態にもよりますが、日勤・夜勤等の交代制の勤務時間帯が取られていたり、早番・日勤・遅番・夜勤といったシフト制になっていたりする場合も多いです。不規則な生活リズムになることもあるため、自宅と職場までの距離が近く通勤が苦にならない、ということが仕事を続ける上でも大きなポイントとなります。
また、通勤がしやすい場所に社員寮や社宅、または借り上げ住宅などがあるのか、無い場合は、自身で賃貸契約をする際の住宅手当や家賃補助がどのようになっているのかが事前に確認されるポイントとなります。
ポイント② 研修や資格取得のための制度は充実しているか
介護職の給与水準は決して高くないとはいえ、転職後に仕事を始めてからでも「介護福祉士実務者研修」や「介護福祉士」の資格取得等、スキルアップをしていくことで着実に自身の給与額を上げていくことは可能です。
そのため、このようなスキルアップに取り組みやすい制度を設けているかどうかも、求職者にとってぜひ押さえておきたいポイントでしょう。
具体的には、資格取得のための受験料補助や研修に参加するために休みを取ることができるかどうか等です。
このような制度が整えられているかによって、その職場が職員のキャリアアップ促進に積極的であるかどうかということも少なからず感じとることができるでしょう。
ポイント③ 自身の健康管理をサポートする制度はあるか
介護の仕事は肉体労働も多く、長く仕事を続けていくには自身の健康管理も大切なポイントとなります。
健康診断の補助やインフルエンザの予防接種、医薬品の割引販売等といった一般的なものだけにとどまらず、介護職につきものとされる腰痛対策のためのサポート(マッサージや整体等)を提供している所も珍しくありません。
どんなにやりがいを持って仕事に励んでいても、肉体面で慢性的に痛みを抱えてしまっては安定して働き続けることは難しくなってしまいます。
どの程度のサポートが整えられているのかを再確認してみるのはいかがでしょうか。
さらに、人と人とのやりとりが前提にある介護の現場では、被介護者やその家族との意思疎通や職員同士のコミュニケーションが思うようにいかず、思い悩む例もしばしば耳にします。メンタル面でのヘルスサポート(カウンセリング等)を提供している事業者もありますので、こちらの導入も検討することができるでしょう。
実際に利用するかは別として、いざとなったら使える制度があると知っているだけで、転職者の心持ちが変わってくるはずです。
■福利厚生制度の整った職場を提供
誰もが、どうせ働くならできるだけ良い条件で、福利厚生を存分に活用できる職場で働きたい、と思うはずです。
福利厚生制度が充実している事業者はウェブサイトでその旨を積極的にアピールしているので、求職者は様々なサイトを比較検討して、全体像を把握していることでしょう。
大手の介護事業サービスグループや、他業界から参入した大手企業が母体となっている事業者等は、よりバラエティ豊富な福利厚生プランを提供している場合もあります。
全体像を把握した求職者は、介護業界の求職者を対象にした合同説明会や合同面接等に積極的に参加して、より具体的なことや気になる点を直接質問して確認するかもしれません。
また、採用前の職場見学の機会等でも確認するチャンスをとらえ、転職後のイメージをできるだけ具体的に持って、より良い条件の職場を見極めるつもりでチャレンジする転職者もいることでしょう。
さらに、転職者の中には現場で働く介護士の口コミサイトを覗いてみる人たちもいます。そこには実際の待遇面がどうかについて書き込みがされていることもあります。
さまざまな客観的な情報を得た上で、口コミサイトでさらなる現場の「生の声」として参考にしてみる人もいることでしょう。
現場で働く職員の生活や健康面でのサポートを行い、より働きやすい職場作りを行っていくことは、職員の職場への満足度が向上するだけでなく、離職率の低下に繋げることもできます。
そうなると、事業者にとっても新たな人材の採用活動に労力を割く必要が無くなるため、長期的にみても福利厚生制度を整えることは効果的だといえます。
これからも、人材確保のために更なる福利厚生制度の見直しを図っていく事業者も出てくるのではないでしょうか。
求職者がより良い条件で長くやりがいを持って働いてもらうためにどんな整備を心がけることができるのか。今回ご紹介したチェックポイントを軸に施設として優先順位を設定して、この流れを上手に「活用」していくとき、より良い転職者を迎えることができることでしょう。