フレイルを知る|予防は正しい知識から -原因・診断方法・課題まで-
はじめに
「フレイル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。フレイルは健康と要介護の間にある状態です。加齢による身体的な衰えは避けられないものですが、フレイル状態は健康に戻れる可能性があります。しかしながら、適切な介入がないとあっという間に要介護状態に陥る危険もはらんでいます。
フレイル予防は介護予防につながります。ですがフレイルの概念が生まれてからまだ日が浅いため、残念ながら認知度は低いままです。予防は正しい知識から始まります。高齢者の健康寿命をのばすためにもフレイルの原因を知り、ちょっとした変化に気づく目が必要です。
目次▶▶▶
1.フレイルの概要
2.フレイルが起こる原因
3.フレイルと高齢化社会の関係
4.フレイルの診断方法
5.フレイルチェック
6.フレイルの症状
7.フレイル診断における課題と今後の展望
8.フレイル予防・治療のためのアプローチ
9.フレイル予防の課題
10.まとめ
フレイルの概要
フレイルは「健康な状態」と「要介護状態」の中間に位置しており、2014年に日本老年医学会が提唱した概念です。
語源は英語の「frailty」で、日本語では「虚弱」と訳されてきました。しかし適切な介入で健康状態に戻れる可能性があるのがフレイルです。「虚弱」の表現ではこの可能性を否定する印象を受け、聞く者に誤解を与えてしまいます。そこで本来提唱しているフレイルのイメージを保つため、カタカナ表記になりました。
フレイルが起こる原因
ひとは年齢を重ねると、少しずつ体力や気力がなくなってきます。疲れやすくなった、痩せてきた、動くのがおっくうなど「虚弱」と呼ばれる状態です。フレイルには3つの要素があり「身体的」「精神的」「社会的」に脆弱した状態を指しています。この3つの要素が互いに関係しあって負のスパイラルになり、フレイル状態に進んでいくのです。
身体的衰え
3つの要素のなかで比較的自分でも気付きやすいのが運動機能の衰えです。高齢になるに従い、日常生活上での動作がつらくなったり、力が弱くなったと感じる場面があるはずです。フレイルと同義語でよく使われる言葉で「ロコモティブ・シンドローム」と「サルコペニア」があります。これはどちらもフレイルでいう「身体的衰え」の内容を表すものです
「身体的衰え>ロコモティブシンドローム>サルコペニア」と捉えればわかりやすいでしょう。
ロコモティブ・シンドローム
ロコモティブ・シンドローム(以下ロコモ)は、運動器の障害により体の移動機能が低下した状態を指します。この状態を表す言葉として、2017年に日本整形外科学会が提唱しました。
人間の寿命が伸びるにつれ、運動器にもなるべく長く働いてもらう必要が出てきました。
運動器とは、身体を動かすしくみのことです。骨・筋肉・関節・神経などが連携して私たちの身体を動かしています。どれかひとつが障害を受けても身体は動きにくくなってしまいます。
そして移動機能とは、日常生活に必要な「身体の移動に関わる機能」を指します。立つ・歩く・走る・座るなど、健康な状態であれば私たちは意識することなく移動しています。ですが、運動器に何らかの障害が発生すれば移動機能も低下してしまうのです。
ロコモが進行すると転倒や骨折の原因となり、要介護へのリスクが高まります。
サルコペニア
サルコペニアは老化現象のひとつで、加齢とともに筋肉の量が減少していく状態をいいます。1989年にアメリカの学術雑誌で初めて提唱されました。
サルコペニアには、歩く速度が遅くなる、握力が弱くなるなどの症状があります。筋肉の衰えは25〜30歳頃から始まりますが、日常生活に支障がでるほどの状態がサルコペニアです。
ロコモと同じく転倒や骨折につながりやすいため、超高齢化社会の日本では問題視されています。
そのほか身体的な衰えには慢性疾患や多剤併用が一因になっている場合もあります。高齢になれば複数の疾患を抱えることが多く、そのためたくさんの薬を服用します。受診科がそれぞれ違い、似たような薬が処方されるのも珍しくありません。これが身体にダメージを与え、運動機能の衰えを加速する原因にもなっています。
精神的衰え
加齢に伴い、認知機能も少しずつ低下していきます。新しいことを覚えるのが苦手で、短期記憶の能力が落ちたり、思い出すのに時間がかかったりします。
また高齢者は定年退職やパートナーとの死別など、環境の変化が訪れる年代でもあります。長年の居場所やパートナーを失った喪失感は大きく、このため一時的なうつ状態や軽度の認知症状態に陥ることもあります。
怒りっぽくなる・不満を抱える・頑固になるなど、自分で感情のコントロールができなくなることも。性格的なものばかりでなく、孤独感・不安感など高齢者ならではの背景が見えてきます。
このため適切な判断や行動ができなくなるなど、日常生活に影響をきたす場合があります。外出先で失敗すれば出かけるのをためらう気持ちになるでしょう。意欲がなくなればますますふさぎこみ、外に出たくなくなってしまいます。精神的な衰えは、脳や身体を使うことから遠のいてしまうのです。
社会的衰え
核家族化の影響で独居の高齢者が増えて久しくなりました。それでも家族との行き来や近所付き合いがあればよいのですが、本当に孤立した生活を送る高齢者もいます。
社会的な孤立は意欲をなくす原因です。どのような形でもひととの交流があれば、そこから生きがいや張り合いを見出せるかもしれません。しかし年代的には社会的な役割をなくしたり、友人知人がひとりまたひとりと亡くなるのを目の当たりにすることが多いものです。また、たとえ家族と同居していてもほとんど交流がなかったり、いつも孤食であれば、これも孤立しているといってよいでしょう。背景に経済的困窮が隠れていることもあり、社会的な問題にもなっています。
上記で述べた「身体的」「精神的」「社会的」衰えが重なり合うと、急速に老いが進みます。身体機能の衰えにより外出困難になると、社会的なつながりが希薄になってしまいます。また引きこもりがちの生活では食欲がわかないため少食に。すると筋肉を動かすための栄養が足りないのでますます動けなくなる……。という負のスパイラル状態になってしまうのです。
フレイルと高齢化社会の関係
日本は今後も超高齢化社会が進むと予測され、社会保障費の負担は増え続けます。医療費や介護費は社会全体で支えなければなりませんが、少子化の影響でこの先も支え手は減る一方です。
社会保障費を抑えるためには、高齢者の健康寿命をのばす必要があります。要介護状態の前段階であるフレイルの予防、そして早期発見がカギです。フレイルを構成する3つの要素に伴い、適度な運動・栄養バランスのとれた食生活・社会生活への参加などを推し進め、高齢者の健康維持に努めることが重要です。
フレイルの診断方法
フレイルには診断基準があります。医療機関で診断してもらうほか、自分でフレイルの目安を把握できる簡易チェック法もあります。
自分でできる簡易チェック
指輪っかテスト
計測器を使わず、自分の指で筋肉量を測る簡易チェック法です。
①両手の親指と人差し指で輪っかを作る
②その輪っかでふくらはぎの一番太いところを軽く囲ってみる
※利き足ではない方のふくらはぎで計測する
囲めなければサルコペニアの危険度は低いとみなされます。ふくらはぎが細いほど危険度が高くなります。
イレブンチェック
11の質問に答え、フレイルの兆候があるかチェックします。
【栄養に関する質問】
- ほぼ同年齢の同性と比較して健康を心がけた食事をしているか
- 野菜料理と主菜の両方を毎日2回以上食べているか
- さきいかやたくあん程度の固さの食品を噛みきれるか
- お茶や汁物でむせることはあるか
【運動に関する質問】
- 1日30分以上の汗をかく運動を週2回以上、1年以上継続しているか
- 日常生活で歩行またはそれに同等する活動を1日1時間以上しているか
- ほぼ同年齢の同性と比較して歩行速度が早いと思うか
【社会参加に関する質問】
- 昨年と比べて外出の回数は減っているか
- 1日1回以上、誰かと食事をするか
- 自分は活気に溢れていると思うか
- 何よりも物忘れが気になるか
参考:やってみよう フレイルチェック|東京大学 高齢社会総合研究機構
フレイルチェック
75歳以上の後期高齢者が対象の健診では「後期高齢者の質問票」が活用されています。厚生労働省はこの質問票を見直し、2020年からはフレイルなど高齢者の健康状態を総合的に把握できる内容となっています。
質問票は10類型に整理され、全部で15項目の質問で構成されています。
☑健康状態 あなたの健康状態は
☑心の健康状態 毎日の生活に満足しているか
☑食習慣 1日3食きちんと食べているか
☑口腔機能 半年前に比べて固いもの(さきいか・たくあんなど)が食べにくくなったか。お茶や汁物等でむせることがあるか
☑体重変化 6ヶ月間で2〜3kg以上の体重減少があったか
☑運動・転倒 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思うか。この1年間に転んだことがあるか。
ウォーキング等の運動を週に1回以上しているか
☑認知機能 周りの人から「いつも同じことを聞く」などの物忘れがあると言われているか
何月何日かわからないときがあるか
☑喫煙 たばこを吸っているか
☑社会参加 週に1回以上は外出しているか。ふだんから家族や友人と付き合いがあるか
☑ソーシャルサポート 体調が悪いときに、身近に相談できる人がいるか
この質問票は健診時だけでなく、さまざまな場面での活用が期待されています。例えばかかりつけ医を受診したときや、地域サロンなど高齢者の通いの場となっているところでの利用です。
解答結果はシステムに取り込みますので、市町村では高齢者の医療・健診・介護状況などの情報を一括して把握できるようになります。システムを活用することでさまざまな角度からの集計・比較・分析が可能になります。
フレイルの診断方法
フレイルの診断基準は、研究によりさまざまなものが開発されました。最も使用されているのが「CHS基準」で、アメリカの老年医学者リンダ・フリード氏が提唱したものです。2020年に、CHS基準を元に日本版に改定されたものが「J-CHS基準」です。項目は同じ5項目ですが、より日本の高齢者に合わせた内容になっています。
【J-CHS基準】5つの項目
☑体重減少 6ヶ月で2kg以上の意図しない体重減少があるか
☑筋力低下(握力) 男性:28kg以下 女性:18kg以下
☑疲労感(直近2週間で) わけもなく疲れたような感じがするか
☑歩行速度(通常の歩行速度について) 毎秒1.0mより遅いか
☑身体活動 ①軽い運動や体操をしているか
②定期的な運動やスポーツをしているか ※いずれも「週に1回もしていない」と回答した場合
上記の基準に3項目以上該当でフレイル、1〜2項目の該当でプレフレイル(フレイルの前段階)、該当なしならロバスト(健常)とみなします。
参考:国立長寿医療研究センター
フレイルの症状
フレイルの症状は「年齢のせい」と捉えてしまいがちです。しかし診断基準からもわかるように、フレイルは日常生活上での変化がわかれば発見しやすいのです。例えば、よく行く場所なのに到着までに時間がかかるようになった、ペットボトルのふたが開けにくくなった、などです。
J-CHSの5つの基準に基づき、フレイルの症状を説明します。
体重減少
一般的に高齢になると食事量が減るため、体重も減少してきます。しかし意図せず短期間の体重減少がみられるときは注意が必要です。半年間で体重の5%以上の減少があれば病気を疑ってください。がんなどの病気が隠れている場合もあります。
疲れやすい
身体が疲れやすく、なにをするにもおっくうになります。消耗性疾患や心肺機能の低下、また心の病が原因の場合もあります。
歩行速度の低下
フレイルの大きな特徴のひとつが歩行速度の低下です。筋力が低下し移動能力が落ちてきます。心肺機能の低下や神経系の病気が原因の場合もあります。多剤併用が移動能力に影響し、転倒の危険を招くこともあります。
握力の低下
加齢に伴い筋力は落ちてきますが、それ以外の原因も考えられます。栄養不足や筋肉を使わない生活など、普段の過ごし方による衰えです。また持病や薬の影響も考えられます。
身体活動量の低下
移動能力が落ちると活動量も減ります。また引越しなどの環境の変化がきっかけで外出の機会を失うことも。人付き合いを面倒に感じるなどは、意欲低下の現れかもしれません。精神面での影響が活動量に関係していることもあります。
フレイル診断における課題と今後の展望
フレイルの診断には、高齢者の個体差を考慮する必要があります。ひとの生活環境はそれぞれです。高齢者の生活状況や過去の健康状態まで把握すること。そして高齢者本人の意見や自己申告を尊重し、診断に反映させることも必要でしょう。例えば、移動能力が低下していても意欲があり、社会的な活動をしている高齢者もいます。ひとりひとりに適切な基準値が必要かもしれません。
フレイル診断に関する研究は近年進んでいますが、まだ実績やデータが不足しています。フレイルは身体的・精神的・社会的な低下の要素を総合的に判断するため、単一の健康指標では判断できない面があります。
今後もフレイル診断に関する研究が進み、高齢者の健康寿命の延長につながることが期待されます。
フレイル予防・治療のためのアプローチ
フレイル予防のための生活習慣改善
フレイル状態になると、適切な介入がなければ症状が進んでしまいます。要介護状態にならないためには、まずフレイル予防から。生活習慣を改善する意識をもち、実践することです。
栄養
高齢になると自然に食事の量が少なくなります。しかし病気でもないのに体重が減ってきたならフレイルを警戒しましょう。高齢者は肥満よりもやせ状態の方が死亡率は高いのです。これまでメタボ対策していた方も、フレイル予防に切り替える時期かもしれません。
バランスの良い食事を心がける
☑毎日3食しっかりとる 朝食・昼食・夕食を食べる
☑主食・主菜・副菜を組み合わせる
主食→ご飯・パン・麺類など
主菜→魚・肉・卵料理など
副菜→野菜・きのこ・いも類・海藻など
☑いろいろな食材を食べる
多様な食品を食べることで必要な栄養素をまんべんなく摂取できる
※料理が大変なときは、市販の惣菜やレトルト食品を活用しても構いません。
たんぱく質を十分にとる
高齢になると筋肉量が少なくなり、骨密度も低下します。また加齢とともにたんぱく質の合成能力も低下します。たんぱく質は身体の組織を構成するためあらゆる年代に必要ですが、上記の理由から、高齢者にはより一層必要な成分です。
普通の活動量の場合に必要なたんぱく質の量
65〜74歳・男性 :90〜120g
65〜74歳・女性 :69〜93g
75歳以上・男性 :79〜105g
75歳以上・女性 : 62〜83g
たんぱく質は肉や魚などに多く含まれているので、主菜をしっかりとることが大切です。意外ですが、ご飯やパンにも含まれています。プラスαで1品加える、間食を乳製品にするなど、工夫して摂取しましょう。
※ひとり暮らしでも、なるべく誰かと一緒に食事する機会を作りましょう。楽しい食事は食欲を増進させます。
※食事の後は口腔ケアにも気を配りましょう。
身体活動
フレイル予防には、筋力・持久力・運動機能を向上させるための運動が必要です。運動不足は生活習慣病を招き、死亡リスクも高まるのです。若い頃から運動習慣がないと、高齢になって急には始めにくいかもしれません。しかし動くのをおっくうがっているとさらに身体機能が低下します。身体を動かすことは、認知機能の働きにまで影響するのです。
例えば座っている時間を短くすることから始めてはいかがでしょうか。ラジオ体操ならひとりでも部屋のなかでもできます。天気がよい日に散歩に出かければ気分転換にもなります。
習慣になると外出が当たり前になり、筋力がついてくるので動くのが面倒ではなくなります。副産物として、そこからコミュニケーションが生まれ、知り合いが増えるかもしれません。
運動を続けるポイントは、楽しむことです。義務感でやっていても続きません。仲間とのコミュニケーションの延長でよいのです。ウォーキングはお金もかからず、季節を感じられる身体活動です。おしゃべりを楽しみながら歩くのは、心の健康にもなります。
歩数計を身につけ、歩数をカウントするのもよい方法です。成果が数字で見えるのは心理的な効果があり、次も頑張ろうという意欲がでます。自治体や企業でウォーキングのイベントを開催しているところもあるので、参加するのもよいでしょう。ポイント制度を利用すれば歩くのが楽しみになります。
また、市町村主催の高齢者向け体操教室も安価または無料で開催されており、人気があります。利用条件もありますが、対象になるならおすすめです。大手のスポーツクラブもシニア向けのプログラムを提供するようになりました。場所や時間帯など、都合のよい条件で選ぶのも続けるためには大切なポイントです。楽しめる範囲から始めてみてはいかがでしょうか。
社会参加
高齢者の社会参加とは
高齢者の社会参加とは、自分自身の能力や興味に応じて社会的な活動に参加することを指します。具体的には趣味・スポーツ・教育・学習・ボランティア活動・地域活動などです。
高齢者の社会参加には就労も含まれます。できるだけ就労を続けたいと願う高齢者は多く、厚生労働省も高齢者雇用対策を打ち出しています。意欲と能力がある限り年齢に関係なく働き続けられる「生涯現役社会」の実現を目指しています。
◎高齢者雇用・就業対策の概要
生涯現役社会の実現に向けて、次の3つの柱で施策を講じています。
1. 企業における高年齢者雇用の拡大
2. 地域における多様な雇用・就業機会の確保
3. 企業や高年齢者を支えるための支援
令和3年4月から、企業には定年制度の廃止や継続雇用制度の導入などの努力義務が課せられました。事業主が高齢者を雇用しやすいよう、助成金制度も導入されています。地域にも高齢者の雇用安定のための環境づくりが求められています。
高齢者の社会参加の状況
内閣府の「令和4年度版高齢社会白書」によりますと、65歳以上の高齢者で社会活動に参加したと答えたひとは全体の51.6%となっています。「スポーツ・健康」の分野がいちばん多く27.7%で、俳句や陶芸などの「趣味」、祭りなどの「地域行事」が続いています。 また「社会参加した」と答えたひとの方が「参加していない」と答えたひとよりも「十分生きがいを感じている」と答えた割合が高くなっています。
収入を伴う仕事については30.2%の高齢者が「している」と答えました。こちらについても、仕事をしているひとの方がより生きがいを感じているという結果になっています。
参考:令和4年版高齢社会白書(概要版)(PDF版) – 内閣府
高齢者の社会参加のメリット
社会参加することにより、ひととのつながりを築いたり生きがいを感じられます。
例えば、自分の趣味や能力がボランティア活動に活かせれば社会貢献になります。これは高齢者にとって生きがいになるでしょう。能力を活かせれば、高齢者として支えられるだけでなく、支える側にも回れます。
また外出の機会が増えれば自然に身体を動かせるので、健康的な生活ができます。仕事についても、徐々に高齢者の働く場所は広がってきました。健康状態やライフスタイル、能力に合わせて無理しないのが基本ですが、仕事や趣味で充実した生活が送れるのは高齢者の強みかもしれません。
※栄養をきちんととり、身体を動かし、積極的に社会参加しましょう。生活習慣の改善がそのままフレイル予防になります。
※安心して生活するため、定期的に健康診断を受けてください。異変を感じたら早めにかかりつけ医に相談してください。
フレイル予防の課題
運動機能が低下すると動きにくく、エネルギーが消費されないのでお腹が空きません。食事量が少ないと栄養不足になり、筋肉量が落ちます。するとますます運動機能が低下してしまう。これをフレイルサイクルと呼びます。
フレイルサイクルを解消するには、どこかで負のスパイラルから抜け出さなければなりません。この点で課題となるのがフレイルの早期発見です。身体機能の低下や栄養状態の悪化が進んで初めて診断されることが多いのが現状です。症状が進むとそれだけ回復に時間がかかってしまいます。そしてフレイルが発見できても、下記のような理由で高齢者の生活改善が難しい場合があります。
・病気や障がいを抱えていることも多く自己管理が困難
・経済的困窮で必要な支援を得られない
・孤立など心理的要因で意欲が低下している
高齢者の状況に合わせた介入方法を確立するのが大きな課題でもあります。
また、フレイルの認知度の低さもあげられるでしょう。高齢者自身、そして家族などがフレイルの予防や対策について知識を持つことが大切です。そのためにはもっと認知を広げていく必要がありそうです。
まとめ
フレイルは適切な介入で健康な状態に戻れる可能性がありますが、それには早期発見がカギになります。何かおかしいと感じても、検査等で病気が発見されなければ「年のせい」と片づけてしまいがちなのがフレイルなのです。身体的・精神的・社会的な衰えがないか。ときどき簡易チェックしてみる、定期健康診断は必ず受けるなど、自分の問題として捉える必要があるでしょう。
フレイルは生活習慣の積み重ねが大きな原因です。まだ関係ないと思わず、高齢者でなくとも心身の健康を保つ生活を送る。それこそがフレイルの最大の予防ではないでしょうか。フレイルサイクルができあがってからそれを断ち切るのは、高齢者にとっても支援者にとってもかなり困難です。
フレイルの概念はまだ浅く、研究データも豊富とはいえません。一般の認知度が低いことも課題です。早期発見を促すためにも正しい知識を普及させ、フレイル診断がおりてからの介入方法を早急に確立することが望まれます。