看護師として働く上で知っておきたい 基本給の基準や給与の特徴
2022.12.14掲載
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24時間体制で患者さんに寄り添い続けることもある看護師の仕事。

大きなやりがいもある一方で、不規則な交代制勤務や夜勤があったり、勤務先の病棟によっては患者さんを看取らなくてはならないこともあったりするなど、時には大きな負担も強いられる仕事でもあります。そんな看護師が、仕事へのモチベーションを保ちながらも無理なく働き続けていくために欠かせない要素のひとつが、「賃金」です。

看護師に限らずどのような業種・職種であっても、働きに見合った賃金が支払われなければ、前向きな気持ちで仕事を続けていくことは難しくなってしまうといえますが、看護師のように体力的にも精神的にも負担が大きいともいえる仕事であれば、なおさらです。

 

看護師の給与は勤務先の病院や施設の給与規定や就業規則などによって決められていますが、基本給がどのような仕組みをとっているのか、また看護師の給与にはどのような特徴があり、どのように金額が上がっていくものなのかということを事前に知っておくと、キャリアやライフプランを考えていく上でもイメージを描きやすくなります。

 

そこで今回は、看護師として働き始めたばかりの人やこの先看護業界への転職を視野に入れている人が今のうちに知っておきたい、看護師の基本給の基準や給与の特徴などについてご紹介していきます。

 

 

 

基本給の決定基準

基本給は給与の大部分を占めるものですが、その基準は勤務先の病院や施設の規定により決まっています。基本給の決定基準は年齢・学歴・勤続年数などをもとにする「属人給」と仕事や役割の価値をもとにする「仕事給」とに大きく分けられます。場合によってはこれらを組み合わせて用いることもあります。

 

属人給の代表的なものは年功給で、勤続年数に伴って額が上がっていきます。これは勤続等による習熟と看護師としての能力の向上が関連するという考え方によるものです。

看護師として勤続していれば経済的には保障されるため、年齢に伴い生計費が増えていったとしても、生活面での安定感が得られるという特徴があります。一方、病院や施設側にとっては、成果に関わらず勤続年数に応じて必然的に昇給していかなくてはならず、経営管理上の調整力が求められます。

 

仕事給の代表的なものとしては職務給(役割給)、職能給、業績給があげられます。職務給(役割給)は、職務の内容に基づき労働の対価として給与を支払うもので、職務の難易度や責任の度合いなどに応じて額が決定します。このうち、特に責任の大きさなどの役割によって額が決まるものを役割給といいます。職務給(役割給)は職務内容に応じているために、仕事が変化すればそれに伴い減額されることもあり得ます。

職能給は、人材育成に重点を置いた考え方で、職務を遂行する能力に対して給与を支払います。職能資格制度といって病院や施設が独自に設定した職能資格に応じて給与を決定すること方法をとる場合もあります。業績給は、目標管理制度をもとに役割の大きさとそれの達成度評価し、基本給に反映させる考え方です。

 

このようにいくつかの考え方がありますが、年功給のみという場合もあれば、年功給と職能給などのように複数を組み合わせるパターンをとる病院・施設も多くあるようです。

また、基本給の決定にあたっては今まではこのように勤続に基づく年功給の度合いが大きくみられていましたが、近年看護師の働き方自体が多様化してきており、それに伴って評価の仕組みやそれに連動する賃金制度の在り方についても様々な課題が出てきていると指摘されています。

 

そこで、日本看護協会が看護職の賃金制度に関する新しい考え方として、「複線型等級制度」を提案しています。これまでの年功による評価が管理職へとつながっていく一般的なキャリアコースとは異なり、働き方やキャリアなどの視点からいくつかのコースを提示し、自身が希望に応じたコースを選んでいくことができるものです。

自分の選択したキャリアコースの中で能力や専門性を高めていき、その職務や役割に合った評価を受けることでキャリアアップにつなげていきます。複数のコースから自身で選択できることから、納得して仕事と向き合うことができ、それが個人のやりがいにもつながるということと、医療機関の側にとっては個人を適正に評価できることにより、看護師の定着やより質の高い看護ケアの提供につなげることができるというねらいがあります。

 

 

■看護師の給与にみられる特徴

このような看護師の基本給は、一般的な仕事と比較するとやや高い程度だといわれています。ところが、給与の総支給額に注目すると基本給の占める割合が少なく、諸手当部分が占める割合が多いという特徴がみられ、これらの諸手当の存在が看護師の給与を引き上げていると考えられています。

 

「諸手当」は、基本給ではまかなえない部分を補うものです。扶養家族がいる人に対して生活費の増加を補うために支払われる家族手当や、通勤にかかる費用に支払われる通勤手当、資格を取得すると支払われる資格手当、また法定労働時間を超えた場合に支払われる「時間外手当(残業手当)」などは看護師に関わらずその他の多くの職種にも見られるものですが、やはり看護職に特有の手当としては、「夜勤手当」の存在感がとても大きいということができるでしょう。

 

労働基準法では、午後10時~翌午前5時までの就労に対して、給与の25%増しの給与を支払うことを定めています。この他に「深夜勤1回につきいくら支払う」といった定額の夜勤手当を設定している医療施設も多いです。

場合によっては、法定の深夜勤務割増給の代わりにそれらの額も含めて夜勤手当として支給するというケースもあります。夜勤手当はその他の諸手当に比べて額が多く、多い時には年収のうち約40~60万円分が夜勤手当によるものということもあり得るようです。

 

 

■看護師の交代制勤務に対する手当

夜勤手当と同様に、もうひとつ看護師の仕事に特有の手当として挙げられるのが、交代制勤務に対する手当です。看護師の多くが、短期間の間に日勤と夜勤のシフトを不規則に割り当てられる形態で働いています。

夜勤になると日勤に比べてスタッフの配置人数が大きく減り、シフトが決定するタイミングも遅いといった特徴だけでなく、不規則なシフトのために睡眠の質が低下し疲労を溜めてしまいがちであるなど、交代制勤務は過酷な労働であるともいえます。

そのために、この過酷な労働に対する手当として、交代制勤務への手当を支給している病院もあります。交代制勤務を行っている全ての病院でみられる手当ではありませんが、これは看護師の心身のケアやモチベーションの維持を図る上で意義深いものだともいえます。

 

このように、看護師の給与の総支給額では諸手当が占める割合が多く、夜勤などを多くこなしている場合は、なおさら手当額が高いために給与が高くなるというケースもみられます。とはいえ、多くの病院や施設では基本給が賞与や退職金の算定にも用いられることからも、生涯賃金で考えた場合は同じ給与総額であれば基本給の占める割合が高い方が総じて優位であると考えられます。

どんなに手当が充実していたとしても、基本給をいかに上げていくかということが働く側にとっては大きなポイントであるようです。

 

■看護師の具体的な給与額は?

厚生労働省が発表した令和3年賃金構造基本統計調査によると、看護師の平均月給344,300円、平均賞与額は854,600円、平均年収は4,986,200円でした。ちなみに、性別ごとの統計では男性看護師と女性看護師の人数比が「1.2対8.8」と女性看護師の数が圧倒的に多いものの、男性看護師の平均年収は約518万円、女性看護師が約495万円と、約23万円の差があるようです。

 

性別を問わず看護師全体の過去5年間(2017年~2022年)の平均年収の推移をみてみると、全体で20.4万円増加しています。直近では、2021年の看護師の平均年収は前年2020年よりも67,900円増加しています。同時に、看護師の労働者数自体も2020年と2021年を比較すると1万970人増加しているようです。

看護師の平均年収を年代別にみると、それほど大きく伸びるわけではありませんが、年齢と共に少しずつ上がっている傾向があることが分かります。

具体的には、20代の看護師の平均年収は約460万円、30代で約480万円、40代で約530円となっています。豊富な経験を積んで看護師としてのキャリアのピークを迎える年代ともいえる50代では最も平均年収が高く約550万円で、看護師全体の平均年収と比較しても大きな差があることが分かります。一方、看護師の中で最も人数が多いのは20代の看護師ですが、平均勤続年数は3.9年ほどで離職者も多い年代でもあり、キャリアを重ねて年収が上がっていく前に職を離れてしまう人も多いようです。

 

また「看護師か「准看護師」かという点でも平均年収に差が生じています。准看護師の平均年収は約406万円で、看護師と比較すると約91万円の開きがあります。年収の上がり方も看護師同様にゆるやかではありますが、同じく50代で年収が最も高くなる傾向があり、約449万円となっています。

 

■働く地域や場所による違い

看護師の給与は、年代だけでなく働く地域や勤務先の規模によっても大きな大きく変わってきます。都道府県別にみると、看護師の平均年収が最も高いのは東京都と滋賀県で約541万円、次いで山口県が約534万円、千葉県が約533万円と続いています。看護師の平均年収が最も低い都道府県は宮崎県で約382万円となっており、看護師全体の平均年収よりも低く、上位の都道府県に比べると159万円ほども開きがあることが分かります。

また勤務先の病院や施設の規模が大きくなると、それに応じて給与もやや高くなる傾向があるようです。年収でみると、10~99人規模の勤務先の看護師の平均年収は440万円、100〜999人規模では483万円、1,000人以上の規模では541万円となっています。准看護師も同様に、10〜99人規模で402万円、100〜999人規模では408万円、1,000人以上の規模では419万円です。

 

勤務先の規模と同様に、どのような施設かによっても給与は変わってくるようです。例えば、大学病院で働く看護師の平均年収は500万円~550万円ほどです。研究施設としての役割もあり、全国から高度な医療措置を必要とする患者も多く集まることから、先進医療棟や感染症病棟などを抱える大学病院も少なくありません。そのため、基本給以外に病棟によっては特殊業務手当や危険手当などのある病院もあるようです。

さらに夜勤業務も月に何度か生じる場合が多く、その分の手当も加算されるため、他の種類の病院に比べると比較的給与水準が高いケースが多いようです。

 

街の「かかりつけ医」となるようなクリニックや診療所へ勤務する看護師の平均年収は約350万円〜400万円です。大学病院のような入院施設のないクリニックや診療所では夜勤の必要がないため、所定勤務時間以外の業務に対して生じる夜勤手当や時間外手当、休日出勤手当などが発生しません。

先ほど看護師の給与はこれらの手当によって引き上げられている傾向があると述べましたが、このような手当がつかないため、結果的に大学病院などに勤務する看護師よりも年収は低めになる傾向があります。同じようなクリニックであっても、通常の内科などではなく美容系や人工透析を行うクリニックなどでは、クリニック自体の収益が安定している傾向があるため、他と比較するとどちらかというと高い給与水準になることが多いようです。

 

老人ホームなどの介護施設で働く看護師の平均年収は約450万円〜550万円です。介護施設には規模も含めて夜勤の有無など様々な種類のものがあるため一概には言えませんが、夜勤が発生する施設の場合は規模の大きな病院勤務の看護師の年収と大きな差はないようです。介護施設の入居者の介護や医療措置を要する度合いが低い施設や看護師の夜勤配置が義務付けられていない施設などでは平均年収はやや下がる傾向があり、約400万円~500万円となります。

 

 

■雇用形態による違い

他の業界と同様に、看護業界でも正規雇用以外の形態で働く看護師が多くいます。そのひとつが派遣会社に派遣スタッフとして登録し医療機関で働く派遣看護師です。派遣看護師は基本的に時給制で、その時給は都市部では1,500~2,000円ほど、地方では1,200円~1,600円ほどが一般的な相場といわれています。

派遣看護師として働く場合、8時間を超える残業や22時以降の夜勤が発生した際には割増時給となり、時間外手当が加算されます。この他にも、特別なスキルや専門知識、経験などを必要とする求人や急募の求人では時給が高めに設定されることがあり、都市部の規模が大きな病院や介護施設などではその時給が2500円以上となるケースもあるようです。

このような高時給、例えば時給2,000円程度で働いた場合、8時間勤務で月に20日ほど勤務すると正規雇用の看護師の月収と金額にそこまで大きな差は生じません。しかし、派遣看護師は「派遣」という形態のために基本的に正規雇用の看護師のようなボーナス支給がないため、年収で考えるやはり正規雇用の場合よりも数十万円ほどは少なくなってしまいます。

また、アルバイトやパートタイムの看護師として勤務する場合も派遣看護師と同様に時給制となりますが、派遣看護師よりも数百円ほど時給が低い傾向があるようです。他の職種と同様に時給にはかなり地域差がありますが、およその相場は1000円~1500円ほどです。8時間勤務で月に20日程勤務したと仮定すると、その年収は約200~300万円になります。アルバイトやパートタイムの看護師の場合でも、一定のスキルや臨床経験が求められるもの、例えば訪問看護の仕事などは比較的時給が高めに設定されているケースも多くみられます。

以前「多様な働き方で可能性を広げたい ―看護師の夜勤専従―」の記事でもご紹介したように、夜勤で働くことを専門とした夜勤専従の看護師として働く場合は、正規雇用でなくアルバイトやパートであっても高時給であることが多く、少ない勤務日数でも効率的に稼ぐことが可能なようです。

 

 

■看護師の処遇改善

一般的に、女性看護師の平均年収は、同年代の女性の年収の中ではどちらかというと高めであると考えられています。先ほどご紹介したように諸手当の割合も大きいため、特に若いうちは同世代の他業種と比べてみても給与水準が高いということもできるでしょう。

正規雇用であれば経済的にも安定しており、非正規雇用の場合でも求人が豊富で時給も他業種より高めであることからも、資格を取得すれば存分に活躍できる仕事であることは言うまでもありません。

しかし、不規則な勤務体系であることから体力的にも負担がかかり、なおかつ時には人の生死に関わるために精神的なストレスも多くかかる仕事でもあります。そのため、このように体力的にも精神的にもハードな業務内容に看護師の給与や待遇が見合っていないのではないかという声もあがっています。

 

中には、より高い収入を得るために具体的に行動を起こす人もいます。例えば、前述のように看護師の給与は働く地域や勤務先の種類や規模によって異なることから、基本給のより高い病院への転職を果たしたり、他の科への部署への移動を希望したりする人もいるようです。資格の取得がすぐに直接収入アップにつながるというわけではありませんが、仕事の傍らで勉強を進め、認定看護師や専門看護師などの資格取得に励む人もいます。

スキルアップを続け、かつ地道に知識と経験を積んでいくことで将来的に管理職への昇進を果たせば必然的に収入も大きく上げることができるからです。勤務先の就業規則にもよりますが、単発で派遣看護師の登録をして、ワクチンの接種などの副業による副収入を得ている人もいるようです。

 

このように、体力・精神的にも負担の大きい看護師の仕事に見合った処遇を求める声に加え、新型コロナウィルス感染拡大に伴うここ数年の医療現場での負担の増加なども受け、国の「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の一環として、看護職員の処遇改善が進められるようにもなってきました。

これまでのところ、全ての看護師ではなくコロナ医療など地域で一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、2022年2月~9月の間、国の補助金を活用し収入の1%程度(月額4000円)の引き上げがまずは第1段階として行われました。

その後の第2段階では、2022年10月から収入を3%程度(月額1万2000円)引き上げるための制度として、新たに看護職員処遇改善評価料が設けられました。看護職員処遇改善評価料の対象となる医療機関は「救急医療管理加算に係る届出を行っている保険医療機関であって、救急搬送件数が年間で200件以上であること」か「『救急医療対策事業実施要綱』(昭和52年7月6日 医発第692号)に定める第3『救命救急センター』、第4『高度救命救急センター』又は第5『小児救命救急センター』を設置している保険医療機関であること」のいずれかの条件を満たしていなければなりません。

看護師の処遇改善が進められているとはいえ、実情としてはこのように対象となる医療機関がまだまだ限定されており、制度が適用されるのは就業している看護職員の数の約3分の1程度にとどまっているともいわれています。何も行われていない状態よりも事態は進歩しているということもできますが、依然すべての看護職員の処遇改善が進んでいるわけではないため、今後の前向きな進展が望まれるところです。

 

■まとめ

病気や怪我に苦しむ患者さんへ医療的ケアを行い、症状が回復していく様子を見届けたり患者さんやその家族から直接感謝の言葉をかけてもらうことあったり、何より「誰かの役に立っている」というやりがいを感じられるのが魅力ともいえる、看護の仕事。

「やりがい」がハードワークの原動力になっているとはいえ、やはりその大変さに見合った収入を得られているという実感がなければ、仕事を続けていくことは難しくなってしまいます。実際、不規則な勤務体制や精神的なストレスなどが原因で看護師として働き始めて数年のうちに離職してしまう人がいることも決して珍しいことではありません。看護職にとっては業務の質に見合った給与が支払われることは、仕事へのモチベーションを保ちながら働き続けられるだけではなく、長期に渡り勤め続けて看護師としてのキャリアを高めていくことにもつながります。

もちろん、病院や施設側にとっては診療報酬という収益の中でいかに経営戦略を立てていくかということが求められるため、決して容易なことではありません。とはいえ、職場で働く看護師が納得のいく適切な給与制度を設けることが結果的に看護師の働く意欲やキャリアアップをしようという意欲を促すことにつながります。

看護師が納得感を得ながら働き続けることができれば、人材が定着し、組織全体のパフォーマンスも向上するでしょう。組織が活性化すれば、より質の高い医療や看護を提供することにもつながっていくはずです。

看護師として働く上で、または今後看護師としての転職を考えている場合は、今よりほんの少しでも広い視点から病院や施設がどのような基本給の仕組みや昇給の制度を設けているかというポイントにも目をやりながら職場探しをしてみるとよいかもしれません。

そうすれば、いざ自分が働き始めてからも自身の給与に対してより納得感をもって働くことができるようになるはずです。

 

<参考>

日本看護協会 「給与はどうやって決まるのか」

https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/chingin/guide/basic/how.html

 

日本看護協会 「5分で分かる給与明細」

https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/chingin/guide/basic/5min.html

 

日本看護協会 「病院の給与制度(育成・評価)」

https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/chingin/jirei/index.html

 

日本看護協会 「2021年 病院看護・外来看護 実態調査報告書」

https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/research/97.pdf

 

厚生労働省 「令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html