「失業手当」転職するなら押さえておきたい基礎知識
2022.09.17掲載
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現実的に「転職」を考え始めた時、経済面での心配が頭をよぎったことはありませんか?

もちろん、ギリギリまで現在の職場で働き、区切りの良いタイミングでスムーズに転職することができれば何の心配もありません。

しかし、転職先が決まらないまま退職した場合、やはり気になるのが「一定の収入が無い状態が続くこと」です。

 

そこでぜひ知っておきたいのが、「失業保険」(正式には「雇用保険」)です。

雇用保険制度は企業で働く労働者の雇用の安定・促進を目的として作られています。

雇用主には対象となる労働者を加入させる義務があり、いわば「労働者を守るため」の制度だということもできます。

 

具体的には失業予防・雇用状態の是正や機会増大・労働者の能力開発や福祉増進などを図るための事業がありますが、そのひとつに「失業等給付」があります。

「失業等給付」の中で、失業した人が経済的に安定した生活を送りながらも求職活動ができることを目的としたものが「求職者給付」です。

「求職者給付」は一般被保険者に対する「基本手当」、高年齢被保険者に対する「高年齢求職者給付金」、短期雇用特例被保険者に対する「特例一時金」などに細分化されますが、今回は最も代表的なものである「基本手当」(一般的に「失業手当」と呼ばれることもあります)について詳しく解説していきます。

 

 

■基本手当の内容とは?

 

 

基本手当は、失業した人が安定した生活を送りながらも、できるだけ早く再就職先をみつけるための支援として給付されます。

転職先がみつからないまま様々な事情により仕事を退職してしまった場合は経済的な支えともなる心強い制度ともいえますが、離職したからといってすべての人が給付を受けられるわけではありません。

受給のための要件や実際に受けることのできる期間などが明確に定められています。

 受給要件

基本手当を支給するには、以下の2つの要件を満たしている必要があります。

 

1)「失業の状態」にあること。

言葉だけを聞くと、退職している=失業の状態と捉えてしまうかもしれません。

しかし、「今のところ特に仕事をしていない」という状況だけでは失業の状態ということはできません。

ハローワークにて「求職の申込み」を行い、新たに就職することを望んでいるという明確な意思表示を行わなくてはなりません。

つまり、本人にいつでも就職する能力があり、その意思があるにも関わらず、今のところ職業に就いていない状態であることが求められます。

 

したがって、例えば妊娠・出産・育児や病気や怪我などの理由があり今すぐには仕事

に就くことができない、または定年退職をして一定期間休養してから再就職しようと

考えていたりする場合などは「失業の状態」とはみなされず、基本手当を受給するこ

とはできません。

 

2)離職日前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あること。

被保険者期間がこれより短い場合は、「失業の状態」を満たしていたとしても、基本手当を受給することはできません。

ただし、「特定受給資格者」(倒産・解雇等により再就職の準備をする時間的な猶予の無いまま、突然に離職せざるを得なくなってしまった人)や「特定理由離職者」(期間が定められていた労働契約が更新されなかったために離職することになった人)は、離職日前の1年間に被保険者期間が通算6か月以上ある場合でも受給することができるなど、例外もありますので確認が必要です。

 受給期間

それでは基本手当の受給要件を満たした場合、実際にどのくらいの期間支給を受けることができるのでしょうか?

 

ž 受給資格に係る離職の日における年齢

ž 雇用保険の被保険者であった期間

ž 離職の理由

 

これらを元に、90日~360日の間で個別に決定されます。

 

職場の人間関係に不満があった、キャリアアップを図りたいなど、自らの都合によって会社を退職した場合(自己都合退職)は、受給者の年齢に関わらず雇用保険の加入期間によって所定給付日数が決定されます。目安としては、加入期間が10未満年の場合は90日、20年以上で150日です。

 

会社側の都合により退職した場合、例えば前述の「特定受給資格者」や「特定理由離職者」などは、事情を考慮され一般の離職者と比較すると手厚い給付日数となる場合が多いようです。「特定受給資格者」の場合は、受給者の年齢および雇用保険の加入期間によって所定給付日数が異なります。

具体的には、被保険者期間が1年未満の場合はいずれの年齢区分でも給付日数は90日ですが、例えば35歳以上45歳未満の場合、被保険者期間が1年以上5年未満だと給付日数が150日であるのに対して、被保険者期間が20年以上の場合は270日にも及びます。

 

また、期間が定められていた労働契約が更新されなかったために離職することになってしまった「特定理由離職者」であっても、以下の条件に当てはまる場合は「特定受給資格者」と同じ日数の基本手当が受給できるケースがあるようです。

 

ž 期間が定められている雇用期間が満了していること

ž 本人が希望したにも関わらず、労働契約の更新がなされずに離職したこと

ž 「特定受給資格者」の要件には該当していないこと

ž 受給資格に係る離職日が2009年3月31日~2025年3月31日の間であること

 

さらに、自己都合か会社都合退職かに関わらず、基本手当の受給開始後に妊娠・出産・育児や病気・怪我、または親族の介護等のやむを得ない事情により引き続き30日以上働くことができなくなってしまった場合は、働くことができなくなった日数分だけ受給期間を延長することができます。ただし、延長できる期間は最長で3年間と定められていますので注意が必要です。

 支給額

受給期間と共に気になるのが、具体的な支給額ではないでしょうか。

1日当たりに支給される「基本手当日額」は原則として、離職日直前の6か月に毎月決まって支払われた賃金(賞与等は除く)の合計を180で割った額(=賃金日額)の約50~80%(60歳~64歳の場合は45~80%)とされています。

 

基本手当日額はその上限額が以下のように年齢区分によって定められています。

 

30歳未満 6,835円

30歳以 7,595円

45歳以上 8,355円

60歳以上65歳未満  7,177円               ※令和4年8月1日現在

 

 

■基本手当を受けるための手続きは?

 基本手当の概要が分かったところで、ここからは具体的に受給するまでの手続きを簡単にご紹介していきます。

 退職時

現在の仕事を正式に退職することが決まったら、「雇用保険被保険者証」を受け取るタイミングを会社に確認しておきましょう。雇用保険被保険者証は、雇用保険に加入していることを証明するものであると同時に転職時にも必要となります。

基本的に退職時に被雇用者自身の手元にくることになっていますが、手渡しまたは郵送で届く場合などがありますので、把握しておくと安心です。

会社の手続きの遅れなどでなかなか手元に届かないケースもありますので、事前にゆとりを持って問い合わせておくと安心です。

 

会社は、社員の退職時に「雇用保険被保険者離職証明書」と「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに提出し、社員の雇用保険脱退の手続きを行います。

離職証明書は社員本人が氏名を記入することになっていて、3枚一組の書類となっています。

1枚目は事業主控、2枚目はハローワーク提出用、3枚目は「雇用保険被保険者離職票-2」です。この3枚目の「離職票-2」と、別の「離職票-1」とが合わせて退職後10日前後で退職者の元に会社から郵送又は受け取りに行く形で渡されるようになっています。

「離職票-1」には基本手当の支払い先銀行口座や受給資格等決定年月日、離職年月日、賃金日額などの記載欄があり、「離職票-2」には離職理由や離職日以前の賃金支払い状況等が賃金支払対象期間ごとに記載されています。

手元に届いた段階でこれらの項目、特に離職理由などに誤りがないかも確認しておくと良いでしょう。

 

会社から離職票が交付されなかったり、事業主が行方不明になってしまうなど、退職時の必要書類の受け渡しに際して何かしらトラブルがあった場合は、まずは自身の住居地を管轄するハローワークに問い合わせるようにすると確実です。

手続き時に必要となるもの

退職後、必要書類が手元に届いたらハローワークにて手続きを行います。

その際、必要なものは以下の通りです。

 

 雇用保険被保険者証

 雇用保険被保険者離職票(2種類)

 個人番号確認書類(以下のうち1種類)

マイナンバーカード・通知カード・個人番号の記載のある住民票(住民票記載事項証明書)

身元(実在)確認書類(以下のうち1種類)

運転免許証・運転経歴証明書・マイナンバーカード・官公署が発行した身分証明書・資格証明書(写真付き)など

※ 上記の身元(実在)確認書類が無い場合は、公的医療保険の被保険者証・児童扶養手当証書などから異なる2種類

※ コピー不可

写真(正面上三分身・縦3.0cm×横2.4cm・直近のものを2枚)

預金通帳またはキャッシュカード(本人名義のもの・ゆうちょ銀行可)

※ 一部指定できない金融機関あり

 

離職票の見本などがハローワークのウェブサイトに掲載されていますので、事前に参照しておくとスムーズです。

受給資格の決定

自身の住居地を管轄するハローワークにて「求職の申込み」を行い、前述の必要書類を提出します。この時、ハローワークでは基本手当の受給要件を満たしていることを確認し、その上で受給資格の決定を行ないます。同時に離職理由についても判定をしますが、自身の離職理由に異議がある場合(例えば、実際は会社側からの退職勧奨があったにも関わらず自己都合退職とされてしまっているなど)は、申し立てをすることで事実関係を調査し、離職理由を判定することになります。

「求職の申込」と「受給資格の決定」がなされると、「雇用保険受給資格者のしおり」とともに「雇用保険受給者初回説明会」の日時が案内されます。

 

手続き時に案内された雇用保険受給者初回説明会では、手当の受給に関する重要事項の説明が行われますので、この機会に受給に関する制度を十分に理解し、不明な点はしっかりと解決するようにしましょう。同時に今後の就職活動についての説明も行われ、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」を受けとります。

また、この説明会にて第1回目の「失業認定日」が案内されます。

手当の受給

失業の認定日から通常は5営業日ほどで、指定した金融機関口座に基本手当が振り込まれます。ただし、自己都合退職の場合は、離職理由によっては待期期間(=受給資格の決定日から失業の状態が7日間経過するまでの期間)満了の翌日からさらに2か月が経過しないと基本手当を受給することができません。(=給付制限)

さらに、過去5年間に2回以上自己都合により離職している場合は、この給付制限が3か月間に及びます。そのため、自身がどのタイミングで基本手当を受けることができるのかも、説明会などの機会で事前にクリアにしておくと、経済的な目途がつけやすく安心です。

失業の認定

前述のように、基本手当の所定給付日数は離職理由や雇用保険の被保険者期間などによって異なりますが、次の就職先が決定するまでの間、この所定給付日数を限度として「失業の認定」と「手当の受給」を繰り返していきます。

 

失業の認定=失業状態にあることの確認は基本的に4週間に1度、ハローワークにて行われます。指定日にハローワークへ行き、「雇用保険受給資格者証」を提出します。

そして、この時に「失業認定申告書」に自身の求職活動の状況等を記入し報告しなくてはなりません。先ほど、「失業の認定」と「手当の受給」を繰り返していくと述べましたが、手当を受けるためには、失業の認定を受けようとする期間中に、原則2回以上は求職活動を行ったという実績がなくてはいけません。

この「求職活動を行ったという実績」は、単にインターネットや新聞、ハローワークなどで求人情報をチェックしただけだったり、知り合いに仕事を紹介してもらえるよう頼んだりするだけといったものでは認められません。就職しようとする意思があるということを具体的な活動を通じて示す必要があります。具体的には、以下のような活動です。

 

実際に求人へ応募する

ハローワークによる職業相談や職業紹介、各種講習等を受講する

 民間職業紹介機関、労働者派遣機関などによる職業相談、職業紹介、各種セミナー等を受講する

地方自治体や新聞社、求人情報提供会社、公的機関などによる職業相談等や各種講習、

個別相談が可能な企業説明会等へ参加する

再就職に関わる各種国家試験、資格試験、検定等を受験する

 

再就職にあたって公共職業訓練等を受講している期間や、採用選考の結果を待っている期間などは、必ずしもこのような求職活動の実績を必要としない場合もありますが、実際に上記のような活動が行われているかをハローワークが関係機関等へ問い合わせ事実確認を行うこともあるようです。

また、自身の住居地を管轄するハローワーク以外での求職活動を希望する際も、手続きが可能な場合があります。そのような場合は、躊躇せずまずは管轄のハローワークに尋ねてみても良さそうです。

 

 

■公共職業訓練等を受講する場合

 求職活動中にハローワークで行う職業相談の中で、再就職のために公共職業訓練等を受講する必要があると認定され、なおかつ所定給付日数内の支給残日数が一定以上ある場合、

ハローワーク所長によりその受講を指示されることがあります。

その場合は、職業訓練期間中に所定給付日数が終わってしまったとしても、訓練の終了日までは引き続いて基本手当を受給することができます。

さらに、訓練の受講に伴う費用として「受講手当」「通所手当」などが支給されます。

 

受講手当は、基本手当の支給対象となる日のうち指定された公共職業訓練等を受けた日に支給され、日額は500円、その上限額は20,000円となっています。

通所手当は、受給資格者の住所又は居所から該当する職業訓練等を行う施設へ通う際に交通機関や自動車等を利用する場合に支給されます。

月額は通所方法により様々ですが、上限を42,500円までとしています。

 

 

■注意しておきたい「不正受給」

実際は基本手当を受けることができない状況であるにも関わらず、虚偽の申告などにより支給を受けようとすると、それは「不正受給」となり、それ以後のすべての支給が停止され、厳しい処分が行われます。

 

特に退職後は、それまで毎月入っていた給与収入が無くなることで経済的に心もとない気持ちなるものですが、事実と異なる申告をしてしまっては元も子もありません。

また、自分にはそのつもりが無かったとしても、うっかり申告し忘れていたことで結果的に不正受給となってしまうケースもありえます。

具体的には以下のような例に注意して、基本手当の受給期間中も申告しそびれていることなどがないか、自身で確認するようにするとよいでしょう。

 

本当は求職活動の実績が無いにも関わらず、失業認定申告書にあたかも実績があるかのような申告をすること

新たに就職したり、パート・アルバイト・日雇等就労をしたり、自営を始めたりしたが、失業認定申告書でその旨を申告しないこと

内職や手伝い等により収入を得たりしたことを隠す、または偽った申告をすること

 

 

■再就職手当とは?

雇用保険制度の「失業等給付」の中で、失業した人が経済的に安定した生活を送りながらも求職活動ができることを目的としたものが「求職者給付」であると冒頭にご紹介しましたが、それと並んで就職の機会増大を図ることを目的としたものに「就職促進給付」があります。中でも、退職して基本手当を受給しながら求職活動を行う際にぜひ知っておきたいのが「就業促進手当」のひとつである「再就職手当」です。

 

再就職手当は、一言でいうと早期の再就職を促進することを目的として設けられた制度です。これには基本手当の受給者が「せっかくだったら手当を満額もらうまでは再就職しないようにしよう」と考えて失業期間が長引いてしまうケースを防ぐ狙いがあります。

 

ハローワークに求職の申し込みを行い、待期期間(=受給資格の決定日から失業の状態が7日間経過するまでの期間)が過ぎた後に早期に再就職を果たした場合に支給されますが、受け取りには以下のような条件を満たす必要があります。

 

就職日前日までに基本手当の支給残日数が3分の1以上は残っている

待期期間満了後に就職している(又は自営業を開始している)

雇用保険の被保険者である

再就職先が、以前勤めていた会社と関連していない

再就職先で、この先1年を超えた勤務が見込めること

給付制限が自己都合退職により3か月に及ぶ場合、1か月目はハローワークなどの紹介により就職を決めること

受給資格決定以前に採用が既に内定していた会社への就職ではない

過去3年以内に再就職手当や常用就職支度手当を受給していない

 

再就職手当の具体的な受給額は、基本手当の支給残日数によって変動します。

基本手当の支給残日数が3分の2以上の場合は、基本手当日額に所定給付日数の残日数を掛けた額の7割、支給残日数が3分の1以上の場合は6割とされています。

 

基本手当の受給と同様に、再就職手当を受ける場合もハローワークにて所定の手続きを行う必要があります。再就職したことを証明するための書類(採用証明書など)を再就職先で記入してもらった上で、再就職の前日までにハローワークにて最終の失業認定を受けます。その際、採用証明書の他に失業認定申告書、雇用保険受給資格者証、印鑑などが必要です。再就職手当を受給できる可能性がある場合、この手続き時に「再就職手当支給申請書」を受け取り、必要事項を記入し提出することで申請ができます。

 

これに加え、再就職手当の支給を受けた人がその後も引き続いて同じ就職先で6か月以上雇用され、かつその6か月間に支払われた賃金が離職前の賃金の額に比べて低下している場合は、「就職促進定着手当」を受給することもできます。

 

 

■まとめ

次の就職先が決まらないまま仕事を退職してしまった場合、一刻も早く次の就職先を見つけなければ生活費がなくなってしまうため、知らず知らずのうちに大きなプレッシャーを抱えてしまうことになってしまいます。

地道にある程度貯金をしていたとしても、就職先が見つかるまでは少しずつ貯金を切り崩す状況にも陥りかねません。

しかし、基本手当を受け取ることができれば、今までの給与額ほどではなくとも一定期間まとまった額の収入を得られることになります。当面の生活費の心配をせずに集中して転職活動を行うことができ、心の余裕にもつながります。

 

国としても働く意思のある人には一刻も早く就業してもらいたいという狙いがあるため、このように求職活動や再就職を促進し支援する制度を整えています。

ところが、これらの制度の存在や詳細を知らないままでいると、本当は現在の職場に不満があり退職をしたいという強い気持ちがあったとしても、経済的な不安からどうしても尻込みしてしまいがちです。

十分に情報収集し、これらの施策を存分に活用することができれば、そのような不安も払拭でき気持ちにゆとりをもって前向きに転職を考えることができるようになるでしょう。

 

基本手当の受給に関しては、個人により要件や支給額などが大きく異なります。

そのため、退職を考えたらまずはハローワークに相談し、些細な疑問でも解消することをオススメします。同時に、職業相談や求人情報の提供なども合わせて存分に活用し、転職活動を積極的に進めていけると良いのではないでしょうか。

 

 

<参考>

ハローワークインターネットサービス 「基本手当について」

https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html

 

ハローワークインターネットサービス 

「雇用保険受給資格者のみなさまへ 再就職手当のご案内」

https://www.hellowork.mhlw.go.jp/doc/saishuushokuteate.pdf

 

厚生労働省 「離職されたみなさまへ」

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000951119.pdf