【法人向け介護情報】介護職の定着率をアップさせるには?
2022.08.09掲載
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利用者の変化を間近で感じた時や感謝の言葉をかけられた時など、様々な場面でやりがいを感じることができる介護の仕事。

一方で「体力的にキツイ」「人手が足りない」「不規則な勤務時間」といったハードなイメージを持たれることもあるため、一般的に離職率が高い業界だという印象もあるようです。

 

「令和2年度 介護労働実態調査」によると、令和元年10月 1日から令和2年9月30日までの1年間における訪問介護員と介護職員の合計離職率は 14.9%でした。

これは全産業の平均離職率 15.6%を下回っており、かつ平成17年以降最低の数となっています。一般的なイメージとは裏腹に、実は介護業界の離職率はそこまで高いというわけではないのです。しかし、新規採用での人材獲得には限度があるという現実の中、慢性的な人材不足を解消するためには、やはり介護士の職場定着率を上げていくことは避けて通ることはできません。

そこで今回は、介護職の定着率を高めるために採用側が取り組むべきことをご紹介していきます。

 

■明確な「正解」が無いからこその悩み

 介護士は、常に「人と向き合う仕事」です。

利用者との日々のやりとりそのものに楽しみを感じたり、日常生活の中で不便を感じていることや身体的な症状が改善するのを目の当たりにしたりといった、喜ばしい出来事も数多くあります。

その一方、症状が悪化したり、介助がスムーズに行えず責められてしまったり、時には利用者の家族とのやり取りが上手くいかずに誤解を招き、些細なトラブルに発展してしまうケースも珍しくありません。

 

対人サービスである以上、「この場合にはコレが正解」という明確な答えがありません。

正解がないゆえ、何かしら上手くいかないケースがあった時に「本当にこれで良かったのだろうか」「もっと違うやり方があったのではないか」という気持ちを抱いてしまうこともあります。

真面目な人ほど自分を責めてしまうケースや、日々の業務に忙しさゆえに自分の気持ちと向き合う余裕もなく精神的にすり減り、「もう辞めたい」という気持ちが出てきてしまうケースもあるようです。

 

■メンタル面でのケア体制を整える

 このようなメンタル面でのケアをサポートする取り組みは、定着率を高めるために欠かせない要素の一つといえるでしょう。

特に、介護士の離職率は経験3年以内の若手に高い傾向があることからも、新卒採用者へのOJTや教育担当制度をしっかり整備すること、さらに入職前の施設見学や職場体験の機会を充実させ、利用者やその家族とのコミュニケーションの取り方などを積極的に体感してもらうことが大切です。

介護の仕事のイメージと実際の職場の様子とのギャップを事前に埋めておくことと、若手が些細なことでも相談しやすい環境を作ることがポイントといえるでしょう。

 

もちろん、年次の浅い人材に限らず、ある程度の経験を重ねた職員のケアもおろそかにはできません。

利用者とのやり取りはもちろんのこと、後輩職員への指導方法や同僚同士のコミュニケーションなど、年次を経たからこその悩みも生まれてくるためです。

職員同士が日頃の些細な悩みや情報を気軽に共有できるような風通しの良い職場環境作りを心がけることや、年次や職種の垣根を越えて幅広い人間関係を築けるような体制を作っていくこと、また、「個」ではなく職員全体で利用者をサポートしているというチーム力の醸成などが求められるといえます。

■「給与が上がっていく」と実感できるようにする

 メンタル面でのケアに加えて、さらにもう1つ、職場への定着率に関わってくるポイントとして挙げられるのが「待遇の良さ」です。

これは介護士に関わらずどんな職業にでも当てはまることかもしれませんが、人は誰でも労働への対価がしっかりと得られ、その内容に納得をしていれば、当然やる気も出ますし充実感も得ることができるものです。

 

介護の仕事は、キャリアップをしていくためには資格を取得していく必要がありますが、

経験や資格が特になくても一般の介護職員として働くことができます。

未経験・無資格からでも始めることができるため、他業界からでも転職してきやすいという魅力がある一方で、資格を取得しキャリアを重ねるに至るまでの給与が比較的低く設定されているという側面があります。実際、介護職の給与水準については長らく指摘されており、処遇改善加算が図られるなどの動きもありました。

しかし、介護士の離職率を男女別で比較した場合、男性は「自分の将来に見込みが立たなかったため」という理由を最も高くあげていることからも、給与水準をアップし、経済的な側面からも将来のビジョンを描きやすくすることがまだまだ求められているといえそうです。

 

とはいえ、規模の小さい事業所などでは特にそう簡単に給与をアップさせることはできません。そのため、すぐに飛躍的にアップはしなくても、わずかでも年度ごとに昇給していくシステムにしたり、能力や仕事ぶりを的確に評価し「頑張った分だけ」それが少しでも処遇に反映されるようにしたりするなど、少しずつ着実にステップアップしているという感覚を得られるような仕組みを作りが重要です。

働き手側が将来へのビジョンが描けるようにしていくことがポイントだといえるでしょう。

 

■多様な働き方のロールモデルとなる人材の育成

 男性が自分の将来に見込みが立たないことを離職の理由として最も高くあげている一方で、女性は「結婚・妊娠・出産・育児」を離職の理由として最も高くあげています。

つまり、どんなに風通しが良く、人間関係が良好で、給与制度が魅力的な職場であったとしても、結婚や出産などの理由で離職せざる得ない女性が数多くいるということです。

介護の仕事は特に、夜勤やシフト制という形態を取っていることや人材不足もあり休みが取りにくいということからも、他の業界にも増して家庭との両立が難しいという側面があるようです。

 

残業を少なくしたり、有給休暇を取りやすくしたり、それぞれの希望に応じた勤務体制を取れるようにするといった労働条件の改善を図ることは、職場への定着率を高めるための喫緊の課題でもあります。

それと同時に、多様な働き方を実践するロールモデルとなるような人材を積極的に育成していくことも必要です。

「子育てをしながらパートで数年働いた後、常勤勤務になった」「出産のために数年離職していたがブランクを経て現職に戻った」など、様々なタイプの前例を作っていくことで、これからライフステージの変化を迎えるだろう若い世代の職員にも「出産や育児があってもこの仕事をなんとか続けていくことができそうだ」という情報を発信していくのです。

 

実際、他の業界でも女性の「仕事と家庭との両立」という大きな課題を積極的に解決しようと様々な取り組みを行っている企業は、社員の職場定着率も高い傾向にあります。

このような情報を発信することは、既存の職員の定着率を上げるというだけでなく、新しい人材を採用する際にも大きなアピールポイントにもなりえます。

 

売り手市場ともいえる介護業界は、ある意味、職場が気に入らなければ別の介護の職場への転職がしやすい業界ともいうことができます。

そのため、採用側にとっては人材が流れてしまっていくことなく繋ぎとめておくための工夫が欠かせません。

抜本的な改革をしづらい規模の小さな事業所であっても、今回ご紹介したポイントを参考にまずは小さなステップから進めていくことで定着率アップにつなげていくことができるのではないでしょうか。

 

<参考サイト>

公益財団法人 介護労働安定センター

「介護労働の現状について 令和2年度 介護労働実態調査の結果」

http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2021r01_cw_genjou.pdf

 

厚生労働省 「仕事と家庭の両立の取組を支援する情報サイト 両立支援のひろば」

https://ryouritsu.mhlw.go.jp/index.html