技能実習生・特定技能・EPAの違いとは?外国人介護人材の働き方を解説
日本の介護業界では、少子高齢化の進行により慢性的な人手不足が続いています。この課題を解決するため、日本政府は外国人介護人材の受け入れを推進しており、現在「技能実習生」「特定技能」「EPA(経済連携協定)」の3つの制度を通じて外国人が介護の仕事に従事しています。しかし、これらの制度には目的や要件、働き方に大きな違いがあります。本記事では、前編としてそれぞれの制度の概要と違いについて詳しく解説します。
1. 外国人介護人材受け入れの背景
日本の介護業界では、高齢者の増加に伴い介護サービスの需要が拡大する一方で、介護職員の確保が課題となっています。特に地方では、介護施設の人手不足が深刻化しており、外国人材の活用が不可欠となっています。
政府はこの状況に対応するため、外国人が介護職として働くための制度を整備し、積極的に受け入れを推進しています。現在、主に以下の3つの制度を通じて外国人が日本で介護の仕事に従事しています。
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技能実習制度(技能実習生)
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特定技能制度(特定技能1号・2号)
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経済連携協定(EPA)(看護・介護福祉士候補者)
それでは、それぞれの制度について詳しく見ていきましょう。
2. 技能実習生制度とは?
(1)制度の目的
技能実習制度は、もともと「開発途上国の人材育成」を目的として設立された制度です。日本の技術や知識を習得し、母国に持ち帰ることで経済発展に貢献することが主な目的です。
(2)受け入れ要件と特徴
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受け入れ対象国:ベトナム、フィリピン、インドネシアなど
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在留期間:最長5年間(1号・2号・3号と段階的に更新)
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日本語能力:N4程度(業務により異なる)
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目的:技能習得後、母国で活かす
(3)実際の働き方
技能実習生は、介護施設で基本的な介護業務(食事介助、入浴介助、排泄介助など)を担当しますが、制度の目的上、長期的に日本で働くことは前提とされていません。そのため、技能実習が終了すると原則として帰国する必要があります。
3. 特定技能制度とは?
(1)制度の目的
特定技能制度は、日本の人手不足産業で即戦力となる外国人を確保することを目的としています。技能実習制度と異なり、長期的に日本で働くことが可能な制度です。
(2)受け入れ要件と特徴
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受け入れ対象国:フィリピン、ベトナム、インドネシアなど(随時拡大)
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在留期間:
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特定技能1号:最長5年間
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特定技能2号:無期限(永住も視野に)
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日本語能力:N4以上(介護業務の試験合格が必要)
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目的:日本で長期的に働くことが可能
(3)実際の働き方
特定技能1号では、食事介助・入浴介助などの直接介護業務を行います。特定技能2号に移行すると、介護福祉士の資格取得も可能になり、リーダー職や管理職への道も開かれます。
4. EPA(経済連携協定)とは?
(1)制度の目的
EPAは、日本と相手国との経済連携協定に基づき、外国人が日本で看護師や介護福祉士の資格を取得し、専門職として働くことを目的とした制度です。
(2)受け入れ要件と特徴
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受け入れ対象国:インドネシア、フィリピン、ベトナム
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在留期間:最大4年間(介護福祉士資格取得で延長可)
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日本語能力:N3以上(資格取得にはN2レベルが推奨)
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目的:介護福祉士資格取得後、長期的に日本で働く
(3)実際の働き方
EPAの候補者は、日本の介護施設で働きながら、介護福祉士の国家試験を受験します。試験に合格すれば在留資格が延長され、日本で長期的に働くことができます。
5. 各制度の違いを比較
項目 | 技能実習生 | 特定技能 | EPA |
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目的 | 母国の発展のための技能習得 | 日本の人手不足解消 | 介護福祉士資格取得 |
在留期間 | 最長5年(原則帰国) | 1号:最長5年、2号:無期限 | 最大4年(合格後延長可) |
日本語要件 | N4程度 | N4以上(試験合格必須) | N3以上(資格取得にはN2推奨) |
資格取得の可否 | 不可 | 2号なら介護福祉士取得可 | 介護福祉士取得が目的 |
まとめ
今回は、外国人が日本で介護職として働くための3つの制度「技能実習生」「特定技能」「EPA」の概要と違いについて解説しました。それぞれの制度には目的や要件が異なり、働き方や将来のキャリアにも影響を与えます。
後編では、実際にこれらの制度を利用して働く外国人介護士の現場での状況や課題、キャリアパスについて詳しく解説していきます。お楽しみに
1. 各制度ごとの実際の働き方や待遇
技能実習生の働き方と待遇
技能実習生は、主に介護施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など)で、基本的な介護業務を担当します。具体的には、入浴介助、食事介助、排泄介助、ベッドメイキングなどの身体介護が中心となります。
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給与水準:地域の最低賃金以上(施設によって異なる)
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労働時間:週40時間程度(シフト制)
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福利厚生:健康保険・厚生年金・雇用保険加入が義務付けられている
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住居:多くの施設では寮やアパートを用意している
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制約:技能実習修了後は原則帰国が求められる
技能実習生は、制度の目的上、日本で長く働くことを前提としていません。しかし、制度改正により、優秀な実習生は「特定技能1号」へ移行し、日本での就労を継続する道も開かれています。
特定技能の働き方と待遇
特定技能制度の下で働く外国人介護人材は、日本人の介護職員とほぼ同じ業務を担当できます。技能実習生とは異なり、日本の介護現場での長期就労が可能です。
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給与水準:日本人介護士と同等の待遇が求められる
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労働時間:週40時間程度(夜勤の可能性あり)
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福利厚生:社会保険・厚生年金・雇用保険加入
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住居:一部の施設では寮を提供
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キャリアアップ:特定技能2号に移行可能(無期限の就労が可能)
特定技能2号に移行することで、在留資格の更新制限がなくなり、より安定した働き方ができます。さらに、永住権の取得も視野に入るため、外国人介護士のキャリアパスとして魅力的な選択肢となっています。
EPA(経済連携協定)の働き方と待遇
EPAの介護福祉士候補者は、日本で介護業務を行いながら、国家資格の取得を目指します。試験に合格すれば、介護福祉士として長期的な就労が可能になります。
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給与水準:介護福祉士の資格取得後は日本人と同等の給与
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労働時間:週40時間程度(資格取得後は夜勤も可)
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福利厚生:社会保険・厚生年金・雇用保険加入
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住居:受け入れ施設が寮やアパートを提供するケースが多い
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キャリアアップ:介護福祉士取得後は管理職や指導者への道も
EPA候補者は、日本語や介護知識の学習を並行して行う必要があるため、学習意欲が求められますが、介護福祉士資格を取得すれば安定した就労が可能になります。
2. 外国人介護人材のキャリアパス(永住の可能性など)
日本で働く外国人介護士が長期的なキャリアを築くには、在留資格のアップグレードが重要です。
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技能実習生 → 特定技能1号:特定技能評価試験に合格することで、技能実習修了後も日本で働くことが可能
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特定技能1号 → 特定技能2号:一定の実務経験を積み、試験に合格すれば無期限の在留が可能
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EPA介護福祉士候補者 → 介護福祉士資格取得:合格すれば長期就労が可能になり、将来的な永住権取得の道も開かれる
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特定技能2号・介護福祉士 → 永住権申請:一定の就労年数や収入基準を満たせば、永住権申請が可能
このように、外国人介護士が日本で安定したキャリアを築くためには、資格取得やスキルアップが不可欠です。
3. 現場での課題と解決策
言語・文化の違い
課題
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日本語のコミュニケーション能力が不足し、利用者や同僚との意思疎通が難しい
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介護用語や専門用語の理解が不十分で、業務の正確性が求められる場面で戸惑う
解決策
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施設内での日本語研修の実施
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外国人職員向けの介護用語辞書やマニュアルの整備
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先輩職員によるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の強化
職場環境の課題
課題
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外国人職員と日本人職員の価値観や働き方の違いによる摩擦
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宗教的な習慣(食事や礼拝の時間)への配慮不足
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キャリアアップの仕組みが分かりにくい
解決策
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文化理解のための研修や交流イベントの実施
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職場内に相談窓口を設置し、外国人職員の悩みを聞く体制を整える
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キャリアパスの明確化と昇進・昇給の基準を明確にする
まとめ
後編では、外国人介護人材の実際の働き方、キャリアパス、現場での課題とその解決策について解説しました。
技能実習生、特定技能、EPAのいずれの制度においても、日本での就労を続けるためにはスキルアップや資格取得が重要です。また、職場環境を改善し、外国人介護士が安心して働ける体制を整えることが、日本の介護業界にとっても大きな課題となります。
今後、外国人介護人材の受け入れがますます進む中で、適切な支援と制度の整備が求められています。