「売り手市場」といわれる保育業界。
求職者は選択肢が多い分、より良い条件や自分にとって働きやすい職場を自ら選ぶことができます。
一方、採用側は経験豊富で即戦力としての活躍が期待できる保育士を積極的に採用したいところですが、とりわけ中途採用においてはなかなか思うように人材の獲得ができないことも多いようです。次年度に職員が退職することが既に分かっているのに、なかなか欠員を埋めることができずに困ってしまうことも珍しくありません。
そこで今回は、人材確保競争の激しい保育業界において、採用活動を成功させるためにぜひ押さえておきたいポイントをご紹介していきます。
■ポイント① 求職者の「目に留まる」情報開示をする
改めて保育士の求人情報をネットで検索してみると、膨大な数の情報が公開されているのが分かります。保育士専門の求人サイトだけでなく、保育園自体のウェブサイトをいくつかのぞいてみても、各保育園がそれぞれ独自に「採用情報」「職員募集」などの形で求人情報を掲載していることも多いです。
これだけ膨大な求人情報が公開されている状況にあっては、何よりもまず、自園の求人情報が転職を考えている求職者の目にしっかりと留まることが重要です。
そこで意識しておきたいのが、求人情報公開のタイミング。
次の年度に向けて人材を採用しておきたい場合は、遅くとも12月頃までには情報を公開し、採用活動を進めていきたいところです。
しかし、新年度が始まって少し落ち着いてきた夏頃に「やっぱり自分にはこの園は向いていないかも」「転職を考えてみようかな」と思い出し、少しずつ求人情報を当たり始める人もいるかもしれません。または秋頃に現在の職場で次年度の意向を尋ねられ、改めて退職の意思を固めるという人もいます。
これらの可能性を踏まえると、できるだけ早く7~8月ぐらいには求人情報を公開し、なるべく長期にわたって募集の広告を出せるようにすれば、求職者の目に留まるチャンスを最大限増やすことができるようになるでしょう。
さらにもうひとつ意識しておきたいのは、多様な媒体の活用です。
転職を考えている場合、多くの人がまずはインターネットで情報を検索するでしょう。そのため、求人サイトに情報を掲載したりウェブ広告を出したりしても、前述のように競合が多いゆえ、似たような情報が膨大に存在しているというのが実際のところです。
そうすると、自園の情報が埋もれてしまい、そもそも求職者に見て欲しい求人情報が見られることすらもない、という状況に陥る可能性も否定できません。
これを防ぐためには、従来通りの方法のみに頼らず、インターネット上に情報を掲載するのに合わせてSNSなど多様な媒体を活用し、効率的に自園へアクセスしてもらうという方法を取るのも効果的です。
■ポイント② 具体的なイメージができるようにする
求職者の「目に留まる」という第一関門を突破したら、次に押さえておきたいのは「この園で働きたい」と思ってもらえるような情報を提供することです。
求人情報といえば、勤務時間、賃金などの労働要件や雇用形態、仕事内容や福利厚生などを掲載するものですが、これらをただ記すだけでは求職者の印象にはあまり残りません。
「選ぶ側」である求職者は、福利厚生が充実しているかなど、できるだけより良い条件の園を求めて情報を比較します。そのため、自園が他の保育園と比べて特に魅力となるポイントを洗い出し、しっかりとアピールすることが求められるのです。
もちろん、応募してもらうためにできるだけ良く見せようとして誇張するのではなく、実際に働いている職員が日頃感じている「生の」アピールポイントを打ち出すようにするとよいでしょう。例えば、「休みの申請をしやすい」「職員同士の風通しが良い」「持ち帰り業務がない」など、できるだけ具体的に伝えるようにするとより効果的です。
また、文字情報だけでアピールするよりも、視覚に訴える方法も取り入れた方がより効果があるといえるでしょう。
同じような条件の保育園を比較検討する場合、施設の様子やスタッフの雰囲気などが伝わるような写真が掲載されている方が、実際にそこで働くイメージがつきやすくなるため、「もっと詳しく見てみようかな」という気持ちに自然とさせられます。
先ほど述べたように多様な媒体を駆使して、写真や動画などで保育園の方針や雰囲気を積極的に掲載し、可能であれば職員のインタビューを掲載するなど、働く場面がイメージしやすい内容にすることを意識するのもよいでしょう。
■ポイント③ 採用後のフォローにも力を入れる
保育士の採用は他の業界と同様に、求人の募集に始まり応募の受付、その後の書類選考や面接・実技試験を経て内定へと進んでいきます。
求職者が転職希望時期に合わせてスケジュールを立て動いていくのと同様に、採用側も採用スケジュールを作成し、戦略的に動いていくことが必要です。特に、応募を受け付けてから採用を決定するまでは迅速に進めていくことが求められます。
なぜなら、求職者は複数の園をかけもちして応募しているケースが多く、選考の結果を待っている場合があるからです。選考にあまりに時間をかけ過ぎてしまうと、先に結果の出た他の園への転職を決められてしまうことも起こり得るのです。
また、内定を出してから実際に働き始めるまでの期間があまりに長いと、途中で気持ちが離れてしまったり、より良い条件の園を求めてさらに転職活動を行いつづけ、結局別の園への採用が決まり内定を辞退されてしまうというケースもあるようです。
このような事態に陥らないために、採用決定後には内定者と積極的にコミュニケーションが取れるような体制作りをしていくことも大切です。
例えば、研修などを通して事前に内定者の疑問に答えたり、園の教育方針や経営理念を伝える機会を設けたりなどが挙げられます。
こうした採用後のフォローに力を入れることで、就労時にスムーズなスタートを切ることができれば双方にとっても大きなメリットとなり、実際に働き出してから「思っていたのと違った」というイメージと現実とのギャップを少しでも解消することにもつながります。
■少しの工夫で採用活動が大きく進展することも
求職者がアクセスできる情報量が多いゆえ、どんなに良い条件だとしても「ただ掲載する」だけでは埋もれてしまい、なかなか思うように希望者が集まりにくい保育士の採用活動。
しかし、目に留まりやすく情報を掲載する・アピールポイントを具体的にかつ視覚化して訴える・採用後のフォローに力を入れるといったちょっとした工夫次第で、高額な費用や広告費を投じなくてもよりスムーズに進めていけるようにもなります。
そして、スムーズに進めていけるようになったら、それを「毎年効率的に回せるようにするための仕組み」を整えていくことも大切です。
通常の保育業務と並行して採用活動を行っていくことは担当職員にとっても大きな業務負担になりかねません。
そのため、採用活動にITツールを積極的に取り入れ、応募者の情報をファーストコンタクトの段階から一元管理できるようなシステム作りを行うなど、より無駄なく効率的に進められる仕組み作りが求められるでしょう。
このような些細な改善を重ねていくことが、結果的には働きやすい職場環境作りへと繋がり、新たな人材確保にもプラスの効果をもたらすともいえるのではないでしょうか。